第八回「女性史からみる性別像」
- Table Manners
- 3月18日
- 読了時間: 9分
更新日:3月20日

2025年3月16日 日曜日
参加者:4名
ジェンダーロールを乗り越えようの会 第八回
「女性史からみる性別像」
第八回のジェンダーロール勉強会では、弓削尚子 著『はじめての西洋ジェンダー史 家族史からグローバル・ヒストリーまで』 の第二章「女性の歴史が歴史学を変える―女性史」を読み意見交換を行いました。
今回は「女性史」を振り返る中で、歴史が男性の考える女性像に大きく影響されてきたことを知り、男性が思う「女らしさ」や「男らしさ」について考えさせられました。
歴史の中の女性たち
歴史の中で女性の声や経験が見過ごされ、男性を基準にした言葉遣いで歴史が語られてきたことをどのように改めていけば良いのでしょうか。
「見過ごされてきた女性の声」
私たちが知る歴史は、これまで主に男性によって編集されてきました。そのため、記録に残された女性たちの姿は極めて少なく、たとえ記録されていても、それは男性の視点を通して選別されたものが多いのです。こうした歴史の偏りは、女性自身が持つ自己イメージにも影響を与えてきました。ある参加者は「歴史上の女性像から、『こういう女性が良い』と刷り込まれてきた感覚がある」と話しました。また、歴史の中に埋もれてしまった声を性別に関わらずどう拾い上げるべきかという問いも上がりました。
「ジェンダー史と宗教の影響」
ヨーロッパのジェンダー史を知っていく中で、生活に密接に関わるキリスト教の影響が見えてきます。例えば、見過ごされてきた女性の経験や生活を知る上で貴重な資料である日記は、17世紀の牧師の妻が書いたものでした。また、フランス革命期の啓蒙主義運動では、理性や知性が重視され、「男性は理性、女性は本能的な存在」とする考えが強まりました。聖書の解釈においても、イブがいちじくの葉で陰部を隠したことから「女性は貞操を守るべきだ」とされる一方、アダムも同じように隠していたにもかかわらず、男性に対して同じ解釈が適用されないことが今回議論されました。
「歴史記述の見直し」
歴史の教科書も女性史の発展に伴い変わってきています。例えば、「一般選挙権の獲得」という表現は、かつては男性のみを対象としていたことが明確に記されるようになり、「男性選挙権の獲得」と表記されるようになりました。「一般」や「普通」という言葉が無意識のうちに男性を指してしまう状況を変えるため、名称を見直すことは重要な一歩と言えるでしょう。
女性の働く環境
女性の歴史を語る際、日常生活に密接に関わるプロダクトが重要な資料となり、これらが女性の労働や役割を理解する手がかりを提供していました。
「プロダクトが語る女性の役割」
例えば、かつて裁縫箱が付属しているピアノがありました。これは、女性が家を守る存在とされ、裁縫仕事が女性の役割とされていたことを示しています。また、ミシンも女性史を語る上で興味深い対象です。それは単なる道具ではなく、女性の労働、家庭内での役割、さらには資本主義の発展と深く結びついていたそうです。こうした視点を掘り下げた本も読書会の中で紹介されました。
「女性の職場での立場」
また、職場における女性の立場についても議論がありました。歴史的に見ても、女性はオペレーション業務に従事することが多い傾向があります。戦争による労働力不足を補うために女性が男性と同じように働くようになりましたが、リーダーの大半は男性でした。仮に女性がリーダーになっても、それは女性労働者をまとめる「女性内でのリーダー」という側面が強かったのではないかという指摘もありました。
「転勤制度がもたらす影響」
現代の転勤制度についても意見が交わされました。夫の転勤が決まると、妻や子どもが振り回されるケースが多く、夫には仕事のコミュニティがあるものの、妻や子どもは新しい環境で孤立しがちです。なぜ転勤において女性パートナーが夫に合わせなければならないのか。こうした状況が、意図せず専業主婦化を助長し、女性のキャリア形成を妨げているのではないかという懸念が示されました。
良い女性像の呪縛
固定化された性別イメージが対等になれば、社会や家庭における決定権の所在や女性の社会進出に関する課題も変化していくのではないでしょうか。
「ジェンダーロールと象徴的イメージ」
歴史的に、女性は服従すべき存在とされ、男性によって選別された「良い女性像」が形成されてきました。「樫の木が男、蔦が女」という例えがあるように、これまでの社会では女性が男性に寄り添い支える存在とされてきました。しかし、男女の関係性が対等になれば、こうした価値観やイメージも解消されていくのではないかという意見も出ました。
ジェンダーロールについて考える際、「男性はウルトラマン、女性はシンデレラを抱えて生きている」と表現すると分かりやすいと指摘する参加者もいました。性別に紐づけられた象徴的なイメージの違いを例に挙げながら、性別に固定されたイメージに縛られず、自由に人間関係を築くことの難しさを確認しました。また、カントの「女性は美しい存在である」という言葉についても議論されました。この言葉には、裏を返せば「男性は美しくない存在である」というイメージが伴ってしまうのではないかという懸念が共有されました。
「女性の昇進と決定権」
また、女性の社会進出において、積極的に上を目指すことが難しい状況も指摘されました。ある参加者は、「女性のなかには上の地位につきたいのに、自分からは言わず、周囲の環境を整えることで、結果的に昇進する人がいる」と述べました。これは、決定権を男性が握る社会の中で、服従を装いながら自己実現を図る戦略なのではないかという意見がありました。男性は「出る杭は打たれる」というように飛び出す状況を作ってでも、自己実現を測るのではないかという意見もありました。性別による昇進戦略の違いを語る事は、ジェンダーのステレオタイプや偏見を助長する可能性があるとの懸念が示され、議論の難しさを感じました。一方で、家庭においては女性が決定権を持つケースも多いのではないかという意見もありました。決定権の男女差が縮まりつつある今、こうしたアプローチや社会的・家庭的な決定権の所在も変わっていくのかもしれません。
妊婦の決断と服従
出産や医療現場における決定権に関する議論は、性別に関わらず個人の意思や快適さを尊重し、医療の利便性と倫理的な配慮のバランスを考慮する必要があります。
「分娩台と産婦の快適さ」
分娩台の形は、医師が観察しやすいことを優先して設計されており、必ずしも妊婦の快適さを考慮したものではないと指摘されています。かつて産婦が自ら産む、又は助産師が分娩解除していた際は分娩椅子(イス型の分娩台)が用いられており、より自然な体勢で出産できたと言われています。近現代において、医療の利便性と妊婦の尊厳のどちらを優先すべきかという議論が交わされました。
「帝王切開と意思確認の問題」
出産時に緊急帝王切開が行われる際、妊婦の意思確認が十分に行えないことがあります。たとえ事前に緊急帝王切開に同意していたとしても、実際にその状況に直面すると産後うつのリスクが高まる可能性があるという問題が話し合われました。さらに、研修医が無断で出産に立ち会う事例も共有され、女性の身体の権利よりも「命を守るための教育」が優先されることへの違和感が指摘されました。一方で、男性の参加者の中にも医療現場での教育が優先された経験が共有され、これが男女共通の課題ではないかという意見もありました。
また、薬を処方される際、効能を説明し、患者に選択の余地を与える医師の姿勢が評価される一方で、延命治療のように自分が決定権をたとえ持っていたとしても自分で判断が難しい場面があるのではないかという意見も出ました。
「決断力と社会の期待」
決断に関する社会的な期待についても話題になりました。「男らしさ」の象徴として「決断力」が挙げられることがありますが、これは歴史的に男性が決定権を握る社会構造があったためではないかという意見が出ました。性別に関係なく、主体的に決断できる社会のあり方を考えさせられる議論となりました。例えば、飲食店でメニューを選ぶのが遅いと、決断力のなさが男らしさと結びつけられて指摘された経験が共有されました。一方で「とりあえずビール」という文化は、男社会ならではの振る舞いなのかもしれないとの意見もありましたが、これは性別に関係なくその場の効率を優先している事例として挙がりました。
まとめ
今回の読書会では、「女性史」を振り返ることで以下のことが見えてきました:
女性の働き方
家庭内労働が中心だった女性は、戦争を機に社会進出しましたが、管理職は依然として男性中心でした。転勤によるキャリアの犠牲も女性に偏っています。また、裁縫箱付きのピアノなどのプロダクトが、女性の労働観にも影響を与えてきました。
男女に持たれているイメージ
歴史的に女性は「服従すべき存在」とされ、無意識に行動を制限することもありました。リーダーを望む女性も、主張を控えてしまう傾向がありそうでした。
決断と服従
出産の場での決定権は誰にあるのか。社会的に「決断力=男性的」とされる風潮があり、性別に関係なく主体的に生きる力を育む必要がありそうです。
男性が女性の置かれた状況を想像する際、その過程で女性をステレオタイプ化してしまう危険性があると感じました。性別の違いをどのように適切に認識し、またどのように議論を進めればステレオタイプを避けられるのか、その難しさを実感しました。
記録:ダンシロウ
参考文献:
「はじめての西洋ジェンダー史 家族史からグローバル・ヒストリーまで」
弓削尚子(ゆげ なおこ)著
第二章 「女性の歴史が歴史学を変える―女性史」
西洋のジェンダー史を各分野の歴史家たちの視点から学べる入門書。ジェンダーが歴史的にどのように構築されてきたのかを理解することで、ジェンダーの脱構築を考える手がかりとなる一冊です。
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