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第五回「国家とジェンダーについて」

更新日:2024年12月31日

2024年12月28日 土曜日

参加者:4名


ジェンダーロールを乗り越えようの会 第五回

「国家とジェンダーについて」



国文化とジェンダー


「日本語が形作るジェンダー」


 近年日本では、男女差のない「さん」という呼称が小学校などの教育機関で男女に対して平等に使われ始めています。この取り組みは、男女平等への意識向上だけでなく、いじめ対策としてあだ名で呼び合うことを控えさせるために導入されました。

 社会人になると、男性の部下にのみ「さん」ではなく「くん」と呼ぶことが歴史的に続く中で、このような教育が進むと、上下関係のないフラットな世の中が実現しそうです。

 性別にとらわれない呼び方として「さん」が一般化することは評価される一方で、子どもたちが人間関係を縮めるために、あだ名で呼び合う文化を制限してしまいます。

 それぞれの人権が守らるため、ルールによって制御するのではなく、文化も、そして個人の尊厳も、同時に守られる社会を目指したいものです。


「ランドセルが映す日本のジェンダー観」


 小学校入学前のランドセル選びというイベントも、日本固有のジェンダー観が垣間見える根強い文化と言えそうです。かつては、自ら選ぶものではなく、ランドセルは祖父母から与えられていました。近年では、子ども自身が好きな色のランドセルを選ぶのが一般的になってきています。「ピンクのランドセルが欲しい」という男の子の選択をどこまで尊重できるのか、親の価値観で子どもの選択を誘導してしまわないよう気をつける親が増えてきているようです。

 赤のスーツケースや電子機器など、男性をターゲットとして売られている赤色の商品が世の中に多くある中で、「赤いランドセルは女の子のもの」という文化が根付いています。文化的な固定観念をどう乗り越えていくか、私たちに問われています。



政治とジェンダー


「理解ある子育て支援の形」


 2024年10月から改定された児童手当により、3歳から5歳の育児は無償化になりましたが、東京都の認証保育所では、3歳児未満の保育料は月額8万円かかるそうです。利用する施設によっては4万2千円までの補助の対象となることがありますが、家で子育てをする親にも同等の金銭的支援がなされても良さそうだという意見もでました。子育てに理解のある政治家が増えれば、社会的なサポートのあり方も変わり、性別を超えた子育ての関わり方への選択肢も広がっていくのではないでしょうか。

 全ての男性政治家が子育てに無理解である訳ではありませんが、「家庭を守るのは女性」という社会で生きてきた男性が中心の政治で、子育て支援に的確な社会的サポートを考えていくのは難しそうです。一方で、子育てをしない女性がいるように、女性政治家が全ての女性代表だとも限らない中で、子育てに理解のある政治家とは、一体どういう人なのか議論になりました。

 政治に参加できない未成年の抱えている問題や生きづらさなど、多様な視点を受け入れ、性別や年齢を超えて傾聴する姿勢が政治家には求められます。


「女性議員の構成比と地域からの政治変革」


 女性の参政権が認められた1945年からいままでの80年間、女性の議員が1割を少し超える程度しかいません。北欧の女性議員は全体の4割を超える状況と比べてみても、著しく低いこの割合を、日本は解決していかなくてはいけません。女性議員の少なかった韓国では、クオーター制(女性議員比率を義務化する制度)を用いて女性議員を増やした事例もあるなかで、日本ではどのような対策が考えられるのでしょう。性別や年齢による固定観念が、特定の人にとって有利な政策になってしまわない為にも、議員の構成比にも多様性が求められているように思います。

 1980年に始まった生活者ネットワークからは、女性議員の少ない政治に代表者を送り込むなど、女性の声を届けることに成功した団体もあります。「下からの政治」と呼ばれた、主婦やボランティアによって支えられた地域全体を上げて取り組まれた活動は、無農薬野菜を求める消費者の声を背景に誕生しました。この動きは当時、「男性が安定収入を得る」という前提によって支えられていましたが、性的役割分業を乗り越えて変化してきているこの社会で、どのように持続可能にしていくかが今問われています。



行動変革の推進


「男性性の再定義が抱える問題」


 性暴力の問題を解決する為にアメリカでは、性暴力防止のための啓発活動の一環として、「メン・キャン・ストップ・レイプ」という、暴力を止める力がある男性像を打ち出すことで対処しようとしています。いわゆる筋肉質で理想的な男性を起用してメッセージを発信し、彼らのもつ男性像の意識に働きかけようとしています。しかし、レイプの問題だけを見れば、その「男性性」の再定義は有効かもしれませんが、この筋肉質な男性像そのものにも、男性性に対する偏った見方が助長されてしまうという負の側面もないとは言い切れません。女性の痩せすぎモデル起用が孕む、理想の身体像を固定化してしまうという問題と同様に、慎重に考えていかなくてはなりません。

 一方で、性暴力の被害者に対して「露出の多い服装をしていたから」ではないかといった非難が向けられることもあります。こうした偏見を払拭するために、被害者が当時来ていた服を展示する取り組みもありましたが、服装と性暴力には因果関係がないことが示されています。性暴力被害の解決のために、ハラスメントを止めさせようと行動に起こす「バイスタンダー」の重要性を教育する大学もアメリカではあるようです。


「戦争とデモ抗議」


 戦禍においての性暴力は、個人の欲望によるものだけでなく、相手を屈服させるための戦略として集団強姦に至るケースがあります。この背景には、家父長制の文化が関わっており、女性が男性の所有物のように扱われ、性暴力によって相手の尊厳を傷つけ、戦意を喪失させるのです。さらにこれによって、男性同士の絆が生まれるという側面も指摘されており、このホモソーシャルの被害に男性が遭うケースもあります。

 戦争協力を煽る環境においては、戦争を進めるにあたって必要な「男性性」や「女性性」が刷り込まれてしまいます。ジェンダー観を国に方向付けされないためにも、デモを起こせる国民体質を育むことは大事かもしれません。デモと聞くと反社会的な行動と思われてしまいがちですが、デモの申請の仕方や、小学生にとっても身近な「公園でボール遊びができるようにする」など、仲間を募って声を上げていくことができるような国民性が育てば、アイスランドの「女性が休む日」のような抗議活動のような変革を、日本でも起こせるかもしれません。


 今後の課題


今回の話し合いを通して以下の課題が見えてきました。


1. 文化と個人の尊重


社会に根付くジェンダーの固定観念が文化の中で培われていく中で、それぞれ固有の文化を尊重しながらも、個人の尊厳を同時に守る難しさを学びました。文化の多様性と個人の多様性が同時に尊重される社会が求められています。


2. 政治の多様性の確保


女性議員の少なさが長年問題となっている日本の政治において、多様な視点を反映できる政治構造を構築することが期待されます。


3. 行動変革の推進


性被害者を責める文化の変革や、「バイスタンダー」教育の普及など、社会を変える行動を促す仕組みを強化することが課題です。


今回は、日常生活の身近な話から国家や戦争、広範囲に渡る内容の読書会となりました。個人が変えていかれること、社会全体で変えていくこと、文化の多様性と個人の多様性を認める社会づくりについて考えました。新たなジェンダーの固定観念を生み出さないように気をつけながら、今後も読書会を続けていきたいと思います。


まとめ:ダンシロウ





参考文献:


「ジェンダー論をつかむ」
千田有紀(せんだ ゆき)・中西祐子(なかにし ゆうこ)・青山薫(あおやま かおる)著

第5章 日常生活とジェンダー

第6章 国家とジェンダー


三名の著書によって執筆されたジェンダー論の基本的な枠組みを紹介する入門書です。本書は、ジェンダー秩序に関する理解を深める手掛かりとなるでしょう。「です・ます」調で書かれた親しみやすい一冊。

 
 
 

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